SAFARI REPORT

サファリレポート

南の島のパーマカルチャー “システムを信じる!”ドイツ人の挑戦

「俺はドイツ人だ、システムを信じている。」
代表のフランコはアツく語りながら、アクセルをグッと踏み込んだ。

窓の外には、ウシが草を食み、ニワトリが走り回っている。マンゴーやヤシの木が生える南の島の田園風景。そんな中、僕らが乗った車は似つかわしくないスピードで突っ走っていた。ドイツの高速道路かと思うほど、フランコはスピード狂だった。

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僕が、訪ねたのはインド洋に浮かぶザンジバル島のパーマカルチャー(注)と自然農の学校。その代表のフランコに会いに来た。ところが、学校どころか、もっと凄いことになっていた。フランコは興奮気味にツバを飛ばしながら語った。

(注)パーマカルチャーとは:①地球への配慮、②人々への配慮、③余剰の分かち合うことなどを、原則に考えられた農業や暮らし方のデザイン概念。石油燃料からの脱却を目指し、太陽光などの自然の力の最大限活用する方法を目指す。

「『自然』とは完璧なシステムなんだ。パーマカルチャーは自然のチカラを利用したシステム。パーマカルチャーでは、もっと太陽光、風力、雨水、大地のチカラを、有効活用できると考えている。
サステイナブルな未来のためには、新システムが必要だ。ヒッピーみたいに髪を伸ばし、瞑想しても、世界は変わらない。自然の流れにそわないシステムを変えることでしか変わらないんだ。」 バッサリと言ってのけた。

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 今まで訪ねたパーマカルチャーや自然農のサイトは、多くが幅が数十メートル程度。自然のチカラを利用し、雨水を集めたり、堆肥を作ったり、いかに水や栄養源を無駄にしないようにするかという点に注目した、こじんまりした自然農の現場が多かった。

しかし、ここザンジバルのサイトは、およそ広さが10倍で、一見大規模の住宅ショールームのよう。縦1.4km幅800mに400戸以上の住宅が造られ、ちょっとした街だ。日本の団地のように区画整理がされ、真っ青な海を見下ろす高台は 、日本なら何とかニュータウンとか名前がつきそうだ。こんな大規模で、パーマカルチャーが成立するのだろうか? でも、成功すればスゴい!  これが東アフリカで初めて、パーマカルチャーのコンセプトを取り入れた都市計画、フンバ開発計画の現場だ。
ザンジバル島の中心都市ストーンタウンから車で約20分。ザンジバル政府も、混雑した都市人口を郊外に移そうと乗り気だ。

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道路や植え込みに降った雨水はすべて中央の池に集められて貯水池となり、食用の魚を養殖したり、住民の憩いの場となる計画。中央には、公民館も公園もサッカー場も造られる予定だ。
そして、広い区画の中央には、並木道があり、ヤシの木を植えていた。

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家一戸一戸のモデルルームは、一見すると日本にもよくある住宅展示場のよう。
しかし、細部には自然のチカラを利用した工夫がなされ、建物はすべて地元産の自然素材。冷房を使わなくてもよい設計に。乾期には40度を超える暑さのこの島だが、建物の中は冷たい風が通る。床下の冷たい空気が、各部屋に通気口を通じて、部屋を通り抜けるようになっている。住宅建材はすべて、竹や木材など島の産物ででき、お金はすべて島に落ちるように地元経済にも配慮されている。

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そして、フンバの街の開発計画は2016年、ドバイで開かれた世界シティースケープ大賞では、優秀作品として、世界で3位に入選し、表彰された。パーマカルチャーのコンセプトを取り入れた住宅計画では初の快挙という。
おかげで、一戸建てが5万ドル(約600万円)、アパートが1万5千ドル(約200万円)が、完売の勢いだ。www.fumba.town

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 土木作業員に混じって、20人ほどの女子生徒たちが、イスラムのスカーフを頭に巻いて、熱心に並木道の苗木を手入れしたりしている。女子生徒たちは、自然農学校の実習訓練中。いかに自然のチカラをフル活用し、無駄にしないで、食物を作る方法を学んでいるのだという。

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出会ったサブラちゃん、22歳。
並木道の苗木に堆肥を撒いていたところをつかまえた。

「このパーマカルチャーはね、昔、おばあちゃんたちがやっていた農業みたいなの」と話す。

「 昔のおばあちゃんたちは、自然のチカラをうまく使って、健康に食べて、80ー90歳まで生きたけど、最近は40歳くらいでも亡くなる友達がたくさんいるの。何かおかしいのでしょって調べてたら、ある農薬がガンの原因になってるって知ったの。」

「いつか、家族を持った時には、自分の子供たちには健康な野菜を食べてほしいもの。だから、がんばって有機栽培の勉強をしてるの。」
ちょっと照れながらも、目はとても誇らししげだ。

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 フランコに、区画の真ん中にある、並木道の植え込みに連れて行かれた。
そして、大型の住宅開発のウラで動いているある計画について語ってくれた。

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「この並木道があるだろう?
ここは投資家たちに言われて作った”カルフォルニア風”の並木道なんだ。
でもね、ぜんぜん俺の好みではないんだ。食べれもしないヤシの木だけが並んでても仕方がないだろ?!投資家がうるさいから仕方がなく入れてやったんだ。でも実はな、俺の本当の計画はな、あのヤシの下に生やす植物なんだ」とニヤリ。

「ヤシの並木道の下には、マンゴーやパパイヤなど地元の作物をたくさん生やして、ここの住人が誰もスーパーで買わなくていいようにしたいんだ」

「住人みんなで出した生ゴミを最高の堆肥にして、堆肥で最高の果物を育てる。循環させる。住人は誰もが食べてもいい豊かなフードフォレストだ。そして、余るほど作るんだ。もう法外の値段で農薬だらけの食べ物を食べさせられるのはコリゴリだ」

「こんなイメージだ」と写真を見せてくれた。

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帰りの車の中、スピード狂のフランコは、話した。
「俺はだいたいヒッピー音楽なんて嫌いだ。テクノ音楽が好きだ。カチカチの規則正しいシステマティックなヤツ。」車は加速した。

とことん”システム好きなドイツ人”だった。
でも、ハートは熱い、夢はデカい。

南の島の自然のチカラをフル活用する試みが行なわれていた。

<2016年9月 タンザニア ザンジバル>
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野田健太郎
FGASA(南アフリカフィールドガイド協会)公認フィールドガイド、トラッカー。日本エコツーリズム協会会員。 元通信社記者。2008年からタンザニアに在住。「日本語で楽しく分かりやすく」と現地でサファリガイドを始める。インタープリターとして旅行者を案内し現地のオモシロ話を伝える一方、NHKの自然番組の撮影コーディネーターとして、大自然の神秘を映像を通じて届けている。

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