SAFARI REPORT

サファリレポート

王様の交尾

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王様の交尾を分析する。
もちろん、ここで言う“王様”とは百獣の王、ライオンである。

交尾の特徴を箇条書きにするとこんな具合になる。

●発情期は4,5日から1週間くらい。
●交尾はメスから誘う。
●発情期のツガイは15分に一回ほど交尾をする。
●一頭の子供が生まれるまで、計2000回も交尾するという調査がある。

そう、王様はこってり愛を交わす。
これも、やはり王様の特権だ。これが草食動物になると、肉食獣にいつ襲われるか分からない。だから、このように優雅に交尾をしてられない。トムソンガゼルは歩きながら早業の交尾を交わす。「蜜月」などと言っているヒマはない。なるだけ早く事を済ませ、平常に戻ることが、直接、生存の確率にかかわってくるのだ。

交尾のシナリオはこうだ。まず、発情期が近くなると、オスがさかんにメスのオシッコやお尻を嗅ぎまわる。発情期だと分かると、オスがメスを群れから離れたところに連れ出し、1週間あまりのハネムーンに出る。

この駆け引きが、意外とおもしろい。

メスのお尻を嗅ぎまわって、オスが「どうだい、そろそろかい?」
「もう少し待って!」とメス。
「そろそろいいかい?」
「だから少し待ってって!」
「どうだい?」
「分かったわよ、じゃ、そっと抜け出しましょ。みんなには内緒よ」
「よし!・・・(バレてるけど)・・・・」ていう具合。
見ていると、しぐさからこんな会話が聞こえてくる。

いざハネムーンにでると、2頭は少し人目のつかないところへ行き、横たわりオスはメスの誘いを待つ。

メスは、体と気持ちの準備ができると、立ち上がり、オスの目の前をお尻を近づけて歩き、尻尾でオスのほっぺたを撫でながら、通りすぎる。オスはこのサインを「待ってましたー!」とばかりに、追いかけて行って、またがる。このとき、メスが少し腰を浮かせるのが可愛らしい。

オスは前足に力瘤を浮かばせて踏ん張り、離れまいとオスはメスの首筋を噛む。噛むと言っても、ライオンが本気で噛んでは、死んでしまうので、甘噛みだ。ことは1分足らずで、すぐに終わってしまう。

するととたんに、メスは「もうおしまいよ!」とばかりにオスを引っ掻いたり、かみついたりする。

「おっと!」とオスが体をかわすと、なぜか、メスはすかさず、地面に背中をつけ、「ゴロニャー」と仰向けになる。猫が甘えているときの姿勢のようだ。一説には、これが受精の確率を上げるというが、ただ気持ちよさそうに、うたた寝をしているようにしか見えない。邪魔されると、怒ったりするのだから、、、。

10分ほど経ち、メスが次の誘いをかけると、一連の動作が再び繰り返され、これが1週間近く続く。

1週間に渡り、2,3千回となると、体力も半端じゃない。この期間は、交尾に忙しく、狩りをするヒマもない。体力も落ち、その隙を突いて、群れをのっとられるケースもある。また、そこまでいかなくても、自分の群れのメスとこっそり、交尾しにくるズルイ若者もいる。それに目を光らせながら、事を運ばなくてはならない。

王様にも、苦労がある。オンナにうつつを抜かしていると、王様も危うい

2008年9月
ンゴロンゴロ・クレーターにて ケンタロー

ケンタロウ

野田健太郎
FGASA(南アフリカフィールドガイド協会)公認フィールドガイド、トラッカー。日本エコツーリズム協会会員。 元通信社記者。2008年からタンザニアに在住。「日本語で楽しく分かりやすく」と現地でサファリガイドを始める。インタープリターとして旅行者を案内し現地のオモシロ話を伝える一方、NHKの自然番組の撮影コーディネーターとして、大自然の神秘を映像を通じて届けている。

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