SAFARI REPORT

サファリレポート

95歳のふたり「マサイの祈祷師の場合」

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「孫たちのために、小学校まで建ったよ」
と長老は笑顔で話す。
マピ長老には、妻が23人、子供が150人以上、孫が500人近くいる。その孫たちのために、小学校が建った。クラスメイトがみんな親戚というスゴイ世界だ。

車を走らせていくと、遠くから、集落が見えてくる。マサイの伝統では、妻ひとりひとりが、泥で家を造り、旦那は日ごとに、違う家で寝る。普通は数戸の小屋が建つだけだが、ここでは山の一面に家が建つ。ざっと見ただけでも軽く20ー30戸はある。
車でゆっくりと集落に入っていくと、まるほどデカイ。訪ねたのが、昼間だったので、3000頭のウシはほとんど水飲みに出ていたが、残した足跡とフンの量がおびただしい。大群の移動の後だ。第一に「一家で3000頭」なんてきいたことがない。通訳のマサイは外を見回し、目を丸くし、「大金持ちだ!」と騒いでいる。

待つこと三十分、長老と面会が許された。大きな太鼓腹の長老は布袋さんのよう。御歳95歳だ。

丁重に挨拶し、「スゴイですねー、長老。どーやってこんな富と大家族を築いたのですか?お仕事は?」と聞くと、キリンの尾っぽの蝿払いを振り回しながら答えた。
「祈祷師じゃ。」

現代医療が行き届かない田舎では、今も祈祷師が活躍する。持ち込まれる相談は、腹痛や頭痛などカラダのことから、ダンナの浮気防止や子宝を願ったり、人を呪うような祈祷もあるはあるが、それはあくまでも念入りに相談を聞いた上での、「最終手段だ」という。日本でも昔から「病いも気から」という。問題の半分が気持ち次第なんなら、すごーく信じていれば、半分くらいは解決するのかもしれない。
僕が訪ねたときも、夫の浮気防止の祈祷をしてもらう女性がいた。シャツやクツ下など夫の持ち物を持参し、何やら呪文を唱えている。一通り相談を終えると、しっかり謝礼をして笑顔で帰っていった。一回の相談で、10000シリング(約650円)。これに必要な処置があれば、その処置料が加わる。それが、2ー5万シリング。(約1300円ー3500円)
僕も診てもらうことにし、その間にいろいろ話をきいた。

ーなぜそんなにたくさんお嫁さんを貰ったのですか?
「昔はね、友達同士で張り合いだったんだ。何人嫁をとるか。だから、一度に2人と結婚するっていうのを何度もやったよ。」

ー暮らしはどうですか?
「ヨメが多いのはいいことが、タイヘンだよ。ワシの時代はよかったけど、今の時代は、何かと金がかかる。息子らには勧めんよ。」

ーしかし、これだけの大家族を養うのは、大変では?繁盛の秘訣は?
「ワシはいつも正直な商売をしてきた。だから、評判もよかった。そして、評判が評判を呼んで、儲かったんだよ。」
なるほどー。
ウシの角の入れ物に入った石コロをとりだし、ツバを吹きかける。僕の時計を取り、それにも長老と僕がそれぞれツバをかける。ジャラジャラとウシの角を掻き混ぜた後、なんらかの規則にしたがって、碁石のような石を取り出し始めた。
「年齢は?生まれは?」と聞きながら、さらに石コロを振り分けていく。

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そして、しばらく、じーっと碁石を吟味し、
「あなたの人生は、何ひとつ問題ない。すべてうまくいく」と。

「そのわりにはいろいろ苦労してるんだよなー。じゃあさー、、、」と質問しようと思ったとき、ゴロゴロゴロ、、、、。遠い方でカミナリが鳴った。とたんに長老は石コロをそそくさと回収し始めた。
「ちょっと待ってよ、もっと聞きたいことがあるんだけど、、、、。せっかく1万シリングも払ったのだから、、、。」

しかし、「カミナリが来るとうまく診れないから、また今度、また今度。 」と聞き入れてくれない。石コロをソソクサとしまっている。
ちくしょー。
こうしてウシは増えたのか、、、。

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ムトワンブにて ケンタロー

ケンタロウ

野田健太郎
FGASA(南アフリカフィールドガイド協会)公認フィールドガイド、トラッカー。日本エコツーリズム協会会員。 元通信社記者。2008年からタンザニアに在住。「日本語で楽しく分かりやすく」と現地でサファリガイドを始める。インタープリターとして旅行者を案内し現地のオモシロ話を伝える一方、NHKの自然番組の撮影コーディネーターとして、大自然の神秘を映像を通じて届けている。

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