SAFARI REPORT

サファリレポート

バードウォッチング!

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「日本野鳥の会」をバカにしたことはないか?

僕は何度もある。
昔、「紅白歌合戦」で双眼鏡を右手に、カウンターを左手に、観客で埋まるNHKホールで白旗、赤旗を数え、優勝チームを決めるのを手伝っていた。元々、渡り鳥を数えるために鍛えた技術だが、いつしか紅白歌合戦での定番となり、その姿が滑稽に見えたのだ。

しかし、そんな僕も野鳥に夢中だった時期がある。小学校の低学年のころ、近所にくる鳥の名前は、全部言えたし、絵を描くとなるとよく鳥の絵を描いていた。親に野鳥の本と、鳥の鳴きマネができる笛をもらった時の喜びは、今も覚えている。双眼鏡を手に近くの湿原に行き、たくさんの水鳥を観察した。

でも、そのプレゼントから1年もしないうちに、野球チームに入り、鳥への興味がだんだん遠ざかっていった。そのうち女の子にも興味を持ち始め、タカやフクロウへの興味は女子に取って変わられていった。

以前、日本で指折りのカメラマンと仕事したことがある。野生動物を専門にする人だが、よくタンザニアを訪れ、野生動物の撮影に、こんなに適した場所はないと、絶賛していた。
この前、その人が珍しくニホンザルの撮影に取り組んでいたので尋ねてみた。
「どうですか?日本での撮影は?」
すると苦い顔をして、
「すごく難しい」と。
いつも淡々と仕事をするプロ魂の強い人から出た言葉に僕は驚かされた。ニホンザルの調査はかなり丹念にされているし、どこに何がいる、どこに行けば何が撮れるかは、すぐに見当がつきそうな気がしたからだ。

しかし、よく聞くと、ニホンザルを撮るのは撮れるが、他の動物との絡みが撮れないようだ。というのは、自然番組の多くは、対象の動物とその周りの動物との絡みで中身が構成されている。誰かが誰かを食べたり、食べられたり、、、。それによって、ドラマとかストーリーが生まれ、起承転結ができる。しかし、この捕食関係がほとんど見られないのだという。

そりゃ、そうだ。日本列島の肉食獣なんて、オオカミもいないし、クマだってほんの一部の生息地に限られている。日本列島の食物連鎖は少し崩れてしまっているようだ。

肉食獣がいる自然だと撮影はもとより、その生態系がうまく機能しているかモニターするのもより簡単だ。肉食獣を観察すればいい。食物連鎖では一番牙が鋭く、獰猛で頂点にいる肉食獣が一番脆いからだ。下の方でバランスが崩れ、全体の個体数が減ると、すぐに頂点に影響を与える。肉食獣一匹を養うのに、どれだけのエサが必要かは明確で、目立つ肉食獣をモニターすることがいい指標になる。

しかし、それがいない自然では何を見て監視をすればいいのか?哺乳類がいないのであれば、鳥類が指標になるのでは?!
「去年まで来ていたあの渡り鳥が来ない」とか「最近タカが見られなくなった」。そんな変化が重要な指標になるのだろう。
人類は、鳥が一匹も生息できないような自然環境では生きいけない。では、どこまでなら、生きて行けるのだろうか?

あの渡り鳥が一羽減っても、あのタカが一羽少なくなっても、人間にはさして影響はないかもしれない。でも、減り続ければ、いつか「これ以上はムリ」とい限界がくる。その時に「あれが最後の一羽だったのか?!」 この台詞が出た時にはすでに遅すぎるのだろう。

「野鳥の会」の時代だ!

最近、真剣にそんな風に思って、野鳥の本を読み漁っている。
初めてのラブレターを読むように。

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アルーシャにて ケンタロー

ケンタロウ

野田健太郎
FGASA(南アフリカフィールドガイド協会)公認フィールドガイド、トラッカー。日本エコツーリズム協会会員。 元通信社記者。2008年からタンザニアに在住。「日本語で楽しく分かりやすく」と現地でサファリガイドを始める。インタープリターとして旅行者を案内し現地のオモシロ話を伝える一方、NHKの自然番組の撮影コーディネーターとして、大自然の神秘を映像を通じて届けている。

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