SAFARI REPORT

サファリレポート

フラミンゴピンクの色っぽさ

ピンク

ピンク映画、ピンクパンサー、ピンクレディー、、。
世の中には、いろんなピンクがある。

心理学的には、温かく優しく、女性的な色とされ、緊張をほぐし、心を落ち着かせる色だそうだ。病院や看護師の制服に使われることが多いのは、それが理由らしい。

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(ピンク映画、ピンクパンサー、ピンクレディー、、。世の中には、いろんなピンクがある。)

 

 

ピンク映画、ピンク街などからすると、性的な感じもするが、血行がいい、肌艶がいいことは、動物でも人でも健康状態を示す上でとっても重要な要素だ。

それにしても、フラミンゴピンクはスゴい。

こんな強烈に思い知らされた出来事はなかった。

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(フラミンゴピンクはスゴい。こんな強烈に思い知らされた出来事はなかった。)

 

雨期と雨期の狭間の2月。東アフリカの大地が乾燥していく時期。タンザニア北部、ほとんどケニアとの国境近くのナトロン湖の周囲では、枯れて茶色の世界が広がっていく。湖は乾き、干上がって面積は縮む。元々浅い湖のため、水は中央にわずか数十センチの水が浅く残り、周囲にはかつて雨期に水面の下に隠れていた、平らの荒野が何キロも広がる。一本の植物の生えない荒野は、昼間の赤道直下の太陽を受け、50度超の灼熱の大地となり、ハイエナやジャッカルでさえ、近づけない。

そして、極限の熱さに適応した鳥、フラミンゴたちにとって、そこは究極の命の”ゆりかご”となる。炎=”Flame” と同じラテン語の語源からくるフラミンゴ。学術名にも”火の鳥”、”不死鳥”を意味するPhoenixが含まれている。

 

ナトロン湖は、何百万年もフラミンゴの命をつなぎ、暖め、見守ってきた営巣地だ。灼熱は外敵を圧倒し、簡単には近づけない。人間が超えることのできない境界線が、メラメラと蜃気楼になって浮かび上がる。

 

しかし、この湖の恐ろしさは熱さだけではない。

未だに噴火し続けるレンガイ山の火山灰のせいで、ph10−12の強アルカリ性の塩湖になる。皮膚に少しでもキズがあれば、ヒリヒリ沁みて痛い。アルカリ成分を好むプランクトンが、乾期に大量発生し、これが大好物なフラミンゴたちにとってのみ楽園となり、毎年、”桜前線”のように飛来して、湖を訪れる。

プランクトンに含まれているピンクの色素がフラミンゴの羽のピンク色を生み出し、このプランクトンを食べないと”もやしっ子”のように羽は白くなる。濃いピンクは健康の証なのだ。だから繁殖期には、オスたちが並んで色を自慢し合い、ダンスを繰り広げる。そして、6か月後、新たな命を授かる。東アフリカの8割のフラミンゴが一斉にナトロン湖で卵を産み、子育てをするのだ。その様子を撮影する計画だった。

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(ナトロン湖は、何百万年もフラミンゴの命をつなぎ、暖め、見守ってきた営巣地だ。)

 

2014年2月。

30時間とウン百万円かけて、日本から到着したカメラマンらとともに、セスナ機で湖の上空を偵察飛行していた。上空から営巣地を確認するためだ。フラミンゴの研究者のマークとともに、低空飛行と旋回を繰り返し、前年のGPSデータを辿っていく。フラミンゴの巣は、直径30センチくらいの泥の山。敵を恐れ、集団でいくつも巣を作るので上空からも灰色の小山がポコポコ見えるはずだ。

 

しかし、離陸してから小一時間。搭乗時は冗談ばかり言っていたマークの顔色がどんどん険しくなっていく。何度もGPSポイントを見直して、何回も低空旋回する。昨年の営巣地を隈無く回り、マークはこっちを向いた。

すると一言。「Nothing……..」

何が原因か分からないが、今年は一切、繁殖していないというのだ。目の前が真っ白になった。

50日間のロケに備え、スタッフや車もすべて手配済みで、電話一本で現場に動けるよう手配済みだった。全ての作戦が無駄になるのか?!被害額は数百万円。めまいがした。「とにかく飛行場に引き返して、作戦会議をしよう。」冷静さを取り戻そうと必死だった。

 

飛行場に戻っての作戦会議。

これまで撮影方法や時期などについて、いろいろアドバイスをしてくれていたマークも焦っている。

「これまで何年も観察しているけど、このようなことは一度もなかった。一切、巣の跡もないし、そもそもフラミンゴが少なすぎる。一体何があったんだ?本来なら数十万羽いるはずなのに、、、。フラミンゴに何があったんだ?」

まるで我が子のことのように悩み、憔悴している。

すべての作戦を取りやめた。

それから数日、周辺のケニアやボツワナの研究者と連絡を取り、ちょっとずつ状況が見えてきた。

そして、一つの仮説にたどり着いた。

 

情報によると、半年ほど前のケニアでの大雨でプランクトンが大量発生せず、その結果、エサが十分でなかったフラミンゴのオスは鮮やかなピンクにならなかった。白っぽいピンクのオスにセックスアピールを感じなかったメスは繁殖モードに切り替わらず、卵を生まなかった。

そんな仮説だ。

一羽も繁殖していない状況や、雨量の変化などを鑑みると、この説しか成り立たない。8割のフラミンゴがナトロン湖で繁殖すること考えると、恐ろしいほど、正直な自然現象。まったくのハズレ年となったのだ。

 

 

 

僕は自宅に戻り、半年以上かけたリサーチ、研究者と数々のメールのやりとり、そして、数百万円のマイナスを思い起こし、敗北感に打ちひしがれた。

 

雨が降るはずの時に降らず、降るはずのない時に降る。

雨が降るはずの所に降らず、降るはずのない所に降る。

この単純な事実が何を示しているのか。

 

気候は変動している。しかし、人類の活動との因果関係を証明するのは難しいと言う。

しかし、証明を待っていては、手遅れなのでは?フラミンゴは、我々にどんな信号を発しているのか?ピンクの信号から何を読み取るべきなのか?次々と疑問が湧いてきた。

 

繁殖できなくなり、そのうち種がいなくなる。何百万年もの間、いっしょに地球上にともにいた”同居人”たちが、ひとつまたひとつと姿を消していく。いったい何種いなくなると、我々の番になるのか。

 

数百万年、続いて来たフラミンゴの繁殖活動。

数百万円のロスは悔しいが、その神秘に体当たりで触れた。そう思えたら、素直に「フラミンゴピンクはスゴい」。  清々しい敗北感に変わっていた。

 

フラミンゴへの挑戦は諦めない。

投げかけられた疑問を問い続けよう。

DSC_3744-E2-C1(フラミンゴへの挑戦は諦めない。)

 

 

2015年4月 ナトロン湖 ケンタロー筆

ケンタロウ

野田健太郎
FGASA(南アフリカフィールドガイド協会)公認フィールドガイド、トラッカー。日本エコツーリズム協会会員。 元通信社記者。2008年からタンザニアに在住。「日本語で楽しく分かりやすく」と現地でサファリガイドを始める。インタープリターとして旅行者を案内し現地のオモシロ話を伝える一方、NHKの自然番組の撮影コーディネーターとして、大自然の神秘を映像を通じて届けている。

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