SAFARI REPORT

サファリレポート

消えたフラミンゴ

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フラミンゴは、突然来なくなった。

それまで、ンゴロンゴロ・クレーターの中の湖には、毎年、多くのフラミンゴが訪れていた。
このマガディ湖を、よーく、目を凝らし、見ていると、何千羽といる中で、2色のピンクがあることに気づく。
濃いピンクに混じって、色が薄いのが、オオフラミンゴ。
よりピンク色なのがコフラミンゴだ。どちらも、そのピンク色を、食生活で保っている。

フラミンゴは、浅瀬に、嘴を逆さに突っ込み、嘴の上にあるヒゲのようなもので、
プランクトンを漉しとって食べる。この中に含まれる色素が、色を決めるのだ。
このプランクトンを食べないとフラミンゴの色は白くなってしまうという。

そして、このプランクトンは塩分の多い湖を好む。
塩分濃度は、雨量や温度によって、変わってくるので、
フラミンゴは季節ごとに、塩湖と塩湖の間を飛び回り、最適な餌場に渡る。

ンゴロンゴロのクレーターの中にも、このような塩湖があった。
クレーターに雨が降ると、ほとりの塩分を多く含んだ土壌の森の下を通り、マガディ湖へと注ぐ。
毎年、6月ごろになると何万羽がへし合い、にぎわっていた。

しかし、ある時から数はちょっとずつ減り、ある年、とうとう来なくなった。
公園を管理するレンジャーは、生態調査や水質調査など、さまざまな調査を始めた。
そして、いくつかのことが分かった。ひとつは、湖の塩分濃度の低下で、
プランクトンが減っているということ。

そして、湖のほとりにある「レライの森」が枯れていること。森の近くでカバの数が増えていることなどだ。 湖を中心とする生態系に、何らかの変化が起きているのは確かだ。 レンジャーたちの、解決への道筋は、原因と結果の整理から始まった。

そして、今回の原因は、カバだった。
カバが水の流れを変えていたのだ。

カバは皮膚が弱いため、日差しを避け、昼間は水の中で寝て過ごす。日差しを受けて皮膚が乾いてくると、「ゴロン」と寝返りを打つ。そして、その2トン近い体を回転させるたびに、少しずつ彼らが群れる水場が大きくなり、水の流れを変えていたのだという。

山から下りてきた水は、本来「レライの森」を通り抜け、マガディ湖に流れこむ。
しかし、森沿いの水場で、多くのカバが「寝返り」をしたため、水はカバの水場を流れ、淡水の泉がある別のルートを通って湖に注ぎこんでいた。水場と泉の水で薄められた水が、
湖の塩分を薄め、プランクトンの繁殖を妨げていたのだ。

また、もともと、「レライの森」の土壌は塩を多く含むが、森のアカシア種は、そこまで濃い塩分を好まない。
森の下の水の流れが変わり、森の土壌の塩分濃度が濃くなりすぎたことが、
枯れた原因のひとつだったという。

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この結論が出るまで、数年。
レンジャーたちは、その水の流れをもとに戻し、湖は元の賑わいをもどしているが、
クレーターには、80種類以上の哺乳類がいる。それらの均衡が保たれて、
初めて、動物たちが共存できる。彼らの習性を理解し、データの収集と解析をし、
無数のトライ&エラーがあって、原因が判明した。

ひとつの自然を守るために、注がれるレンジャーたちの努力に、僕は敬意を表わしたい。

2008年8月
ンゴロンゴロ・クレーターにて ケンタロー

ケンタロウ

野田健太郎
FGASA(南アフリカフィールドガイド協会)公認フィールドガイド、トラッカー。日本エコツーリズム協会会員。 元通信社記者。2008年からタンザニアに在住。「日本語で楽しく分かりやすく」と現地でサファリガイドを始める。インタープリターとして旅行者を案内し現地のオモシロ話を伝える一方、NHKの自然番組の撮影コーディネーターとして、大自然の神秘を映像を通じて届けている。

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