元祖・キャットウォーク!
ヘッドロック、
スリーパーホールド、
四の字固め・・・・
関節技を決められているように、枝のマタに、アゴ、手足、骨盤、シッポまで乗せ、体勢を固めて、妙に気持ちよさそうに涼んでいるヒョウやライオン。
居心地のいい場所を見つけた彼らは、アカシアの木漏れ日の下で、十数時間も寝続ける。足を風にそよがせ、身動きもしない。ネコ科の彼らが、最も緊張感のない場所、それは樹の上だろう。
ある朝、僕は、樹の枝に腰を落ち着かせたメスのヒョウを見つけ、眺めていた。一晩、歩き回って少し前に、このあたりについたのだろう。重たそうなマブタで、ウトウトしていた。
時折ふーっと、そよ風が鼻先を過ぎると、好みのニオイを嗅ぎ分けたかのように、少し目を覚ます。顔を上げるときもあれば、片マブタだけを動かすときもある。何度かこの動作をやり過ごし、待ち続けているうちに“本番”がきた。
“キャットウォーク”の始まりだ。突然、スッと息を吸いこみ、顔を起こしたと思ったら、枝の間を、パッパッパッとつたって、降りだした。手際よく枝から枝へ、飛び移っては、地面にトトン。
大地に降り立ち、感触を確かめると、一歩を踏み出す。ここからが色っぽい。
茂みを避けながら 体をくねらせて、草と草の間をぬける。右、左、右、左と踏み出すと、その足の先から、地面の感触が波のように伝わり、片方の肩の肉が盛り上がる。そのたびに、肩甲骨の間の毛並みは、キラキラと光り、ヒョウ柄が、水面のように揺れる。
右ー、左ー、右ー、左ー・・・・。時折立ち止まっては、あたりにニラミを利かす。ゆっくり、確実に。流す目線に緊張感があり、余計、艶っぽく見える。
肉付きがいい体は、樹の上とは打って変わって、引き締まって見える。
12倍率の双眼鏡で拡大された彼女の巨大な目と視線が合うと、ゴクッと息を呑んで、「コイツに食われたい・・・・」どこかそう思ってしまうとこがある。
恐るべし、サバンナのくノいち。
なめらかに足を運び、木の根元で立ち止まった。樹上を見上げると、全身のバネをつかって、飛び上がった。枝の分岐で、何回か体をクネらせ、二股に分かれた、とっておきの場所にたどりついた。体をよじり、スッポリ収まると、再び足を、ブラーン、ブラーン、ブラーン、、、元の姿に戻った。もう寝てしまうだろう。
僕は、最後に一周しようとエンジンをかけ、車を動かした。
ちょっとずつ、枝の角度が変わり、、緑の間から、ちょっとずつ何かの顔が見えはじめた。
お腹から下半分を食べられたオスのガゼルだ。遥か上の二股の枝に引っかかけられている。待ち伏せされたのか、木の上から飛び乗られたのか、昨夜、餌食になり、引っ張り上げられたのだろう。
その下を通り過ぎるときに、少し見上げた。
固まったガゼルの目は
「ワシもコレに・・・・」、
トロッ寝ぼけたヒョウの目は、
「・・・・・・ニャー・・・・」
4つの目が見下ろしていた。
2009年3月
ンドゥトゥ湖にて ケンタロー
野田健太郎
FGASA(南アフリカフィールドガイド協会)公認フィールドガイド、トラッカー。日本エコツーリズム協会会員。 元通信社記者。2008年からタンザニアに在住。「日本語で楽しく分かりやすく」と現地でサファリガイドを始める。インタープリターとして旅行者を案内し現地のオモシロ話を伝える一方、NHKの自然番組の撮影コーディネーターとして、大自然の神秘を映像を通じて届けている。