SAFARI REPORT

サファリレポート

気になるヤツ

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今日も気になるヤツがいる。

原っぱに散らばった群れの中に、ポツーんと一匹だけ。よく見るとアゴがひん曲がったハイエナだったり、ブタッ鼻のゾウだったり、耳の折れたシマウマだったり、少し不恰好なヤツら。

どこか物語がありそうで、ジーッと見てしまう。生まれつきか、ケガを負って少し格好が変わってしまったヤツら。そいつらを「気になるヤツ」と呼んでいる。

生まれつきにしろ、ケガにしろ、ほかの者と、違う形を持つことは、生存にとっては、不利だ。群れを作る動物の中には、仲間はずれにされる者もいる。しかし、それが原因で、妙に強がっていたり、いじけていたりすると、ますます気になってしまう。


ある午後、サバンナを走っていると、30頭近い、ゾウの群れに遭遇した。乾いた昼下がり、喉を潤し、体を冷やそうと、水場に向かう途中だ。

先回りをして、水場で待っていると、少しづつ家族がそろいはじめた。

再会した家族や親戚は、水を掛け合って、祝う。「うぷー」と、お父さんが、一番風呂に入ったときに、出しそうな気の抜けた声を上げる。皆、コロコロと喉をならし、安堵の表情が、濡れた顔から染み出てくる。水の中で、互いの体にもたれ合い、“口移し”ならぬ、“鼻移し”で、みずを飲ませあっている姉妹もいる。

そんな片隅で、ブタッ鼻の子ゾウを見つけた。水浴びには、参加せず、一人で、草を食べている。ライオンかワニに鼻を食べられたのか、密猟のワナに引っかかったのか、、、。

普通の鼻を持っていれば、楽に届く下草をヒザを着いて、食べていた。体に濡れた跡があるので、水浴びはしたのだろうが、どこか寂しげに、不恰好な鼻を器用に使って、ひとり食べ続けている。

ブツブツブツ・・・・。独り言でも言ってそうな雰囲気だが、自慢の鼻を失いながらも、生きていた。

その時は、半べそで、命からがら、逃げたのだろうけど、今は自分にしかできない技まで身につけている。確実に“気になるヤツ”。

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しかし、人間は、そんなヤツらのことをあまり知らない。

白昼堂々、サバンナで起きてこいるのにもかかわらず、知られず、過ぎて行く。平凡なのに、ドラマチックで、輝かしいけど、当たり前な話。その中には、勝利と苦悩、成功と挫折、笑いと涙、すべてが織り交ざっている。

そんななところが好きで、見つけると、ジーっと見入ってしまう。

2009年4月
ンセレンゲティ・セロネラ渓谷にて ケンタロー

ケンタロウ

野田健太郎
FGASA(南アフリカフィールドガイド協会)公認フィールドガイド、トラッカー。日本エコツーリズム協会会員。 元通信社記者。2008年からタンザニアに在住。「日本語で楽しく分かりやすく」と現地でサファリガイドを始める。インタープリターとして旅行者を案内し現地のオモシロ話を伝える一方、NHKの自然番組の撮影コーディネーターとして、大自然の神秘を映像を通じて届けている。

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