SAFARI REPORT

サファリレポート

チーターのお昼

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突然、チーターが駆けだした。

アリ塚の上で寝転んで、息子とじゃれあっていた母さんチーター。いったん、顔を上げたと思ったら、そのまま、急に小走りでスタスタスタ。脇にいた息子もつられて、スタスタスタ。

次の瞬間、母さんチーターが、急に細い体を弓のようにしならせたと思ったら、1、2、3歩で、全力疾走。あっ!!とその先には、群れからはぐれたヌーの子。母さんチーターは逃げる隙も与えず、後ろから回りこみ、首筋をいきなりガブリ!!一発で仕留めた。

ハーフー、ハーフー。。。。

息を切らしながら、ヌーの首筋にかじりついて押さえ込む。最初は、もがいていたヌーだが、だんだん息は浅くなり、目から生気が抜けていく―。


チンギス・カンのペットだったチーター。インドの皇帝は1000頭も飼い、「鷹狩り」をするように「チーター狩り」を楽しんでいた。スレンダーで気品あふれる姿は、いつも王族に好まれた。

しかし、3秒で時速0から100キロの加速力、地上最速の動物に進化するには、多くの犠牲があった。スピードに頼るがため、体は華奢で、牙も他の大型ネコに比べ、はるかに小さい。ツメはスパイクのようで、決して刃物のように鋭くはない。

何より、スピード頼みの短距離走者は、ケガを極端に恐れ、ケンカをしたくない。“故障”で狩りの確率を落とすわけにはいかないのだ。

特にハイエナを嫌う。いつも彼らに、獲物の半分近くを奪われている。だから、獲物を仕留めた後は、しきりにあたりを見回し、警戒する。親子なら、子が食べるうちに、親が。チーターの母さんは、狩りが終わったら、今度は、周囲に目を光らす。ハイエナに習われる一番危険な時間だから、その食卓はせわしない。


スタスタスタ、、、。
少し遅れて、ヌーを仕留めた母さんの元に、息子がやってきた。息が荒いまま周囲を見回す母さん。その足元で、ヌーはすでに死に絶え、ぐったり横たわっている。

駆けよった息子は「やったー!肉、肉!!」と有頂天に飛び跳ねる。そして、飛びついて、ガブリ。いったん放しては、もう一度ガブリ。しばらく、かじりついては、振りかぶってガブリ! さらにヌーをにらんで、もう一度ガブリ!

食べるわけでもなく、とっくに倒れたヌーに何度もかじりついて遊んでいる。“仕留め”る感触が楽しくてしようがないようだ。


脇で、草原を見渡す母さんの視線は遠く鋭い。見回しては食べ、食べては見まわす。時折、肉をかじっては、また見回す。

それを気にする様子が、まったくない息子。相変わらず、振りかぶっては、ガブリ!。また、放しては、もう一度ガブリ!を繰り返す。

「早く食べなさい!食べ物で遊ぶんじゃないの!」

そんなお昼を、草原で見かけた。

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2009年7月
セレンゲティ平原ンドゥトゥにて ケンタロー

 

ケンタロウ

野田健太郎
FGASA(南アフリカフィールドガイド協会)公認フィールドガイド、トラッカー。日本エコツーリズム協会会員。 元通信社記者。2008年からタンザニアに在住。「日本語で楽しく分かりやすく」と現地でサファリガイドを始める。インタープリターとして旅行者を案内し現地のオモシロ話を伝える一方、NHKの自然番組の撮影コーディネーターとして、大自然の神秘を映像を通じて届けている。

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