SAFARI REPORT

サファリレポート

シャイなサイの恋

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シャイなサイに手を焼いている。
奥手なオスたちは、なかなか異性に手を出さないのだ。

200年前、アフリカ中に100万頭もいたクロサイ。サイの角を求めた密漁で1980年代に激減し、今はわずか2500頭。奥手な彼らの繁殖サイクルは遅く、子供をつくるのに、4、5年はかかる。シャイなオスたちは、ひとたび減ってしまった数をなかなか取り戻せないでいる。

このため、アフリカの多くの地域では保護施設を設け、“お見合い”させたり、お尻に体温計を挿して、体温から繁殖時期を決めたりと、相当、人間が手を焼いている。

野生のクロサイが住むンゴロンゴロクレーターでも、恥ずかしがり屋の彼らをジャマすまいと、彼らの縄張りへの道路を封鎖。レンジャーが、24時間体制で、遠くからデッカイ双眼鏡をのぞいて、監視している。「早くくっつかないかなー」と待ちわびているのだ。

余計なお世話だろう。

恥ずかしがり屋だからこそ、誰にも見られず、悟られず、こっそり事を済ませたいだろに、、、。10人ものレンジャーが双眼鏡をのぞいて、「がんばれ! もう一息」なんて盛り上がっているのを知ったら、「頼むから、ほっといてくれ」と思うだろう。


そんなある日、僕はクロサイのカップルを見つけた。だだっ広い草原のはるか先、少し距離を置いて2頭はいた。

メスの方は、白い砂で砂浴びをしたのだろう。おしろいをぬったような白さ。オスは黒い泥を浴びて、黒くなっている。

白い“花子”を見つけた、“太郎”は、興味しんしん。花子に少し近づいては、鼻を高く上げ、盛んに付近のニオイを嗅ぐ。ニオイを失ったと思ったら、さらに追って鼻を上げる。 繁殖を意識した行動だ。花子がシャーっとおしっこを撒き散らすのを見つけると、太郎は急いでそれを嗅ぎに行く。

クンクンクン、、、。

太郎はそれを嗅いでは、“息子”を地面に着くほど、大きく膨らます。間違いなく意中の彼女だ。シャイな太郎は静かに大興奮、もうすっかりその気のようだ。

ちょっとずつ、ちょっとずつ太郎は、距離を縮め、ようやく手が届く距離に来た。花子の肩に、鼻をつけて、スリスリスリ。彼女の匂いと、柔らかな肌を確かめる。

そして、小声で、彼女にそっと
「ねー、ねー、
そろそろ僕たち・・・・」と。


「もっと彼女を引き寄せて!」
「もっとやさしく!」
「よし今だ!がんばれ!」
気づくと、汗を握って、不器用な恋を応援している。

たぶん、これが余計なお世話なのだ。

ンゴロンゴロ・クレーターにて ケンタロー

ケンタロウ

野田健太郎
FGASA(南アフリカフィールドガイド協会)公認フィールドガイド、トラッカー。日本エコツーリズム協会会員。 元通信社記者。2008年からタンザニアに在住。「日本語で楽しく分かりやすく」と現地でサファリガイドを始める。インタープリターとして旅行者を案内し現地のオモシロ話を伝える一方、NHKの自然番組の撮影コーディネーターとして、大自然の神秘を映像を通じて届けている。

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