SAFARI REPORT

サファリレポート

小ネコちゃん

593

夜のベランダは心地いい。虫の音が響き、コウモリの呼び声がする。

まだ、南アフリカでサファリガイドの訓練をしていた頃のことだ。
ベランダでランタンあかりで本を読んでいた。ライオンの習性について、ゾウの食事について、キリンのケンカについて、ネコの祖先について、、、、。
英語の読書から離れていた僕は、みんなより読むのが遅く、夜になっても毛布にくるまって読み続けていた。
自然保護区の真ん中にあり、電気のない宿舎は、夜になると真っ暗になって、野生の世界に飲み込まれた。そして、闇にまぎれて、色々な動物が訪れた。
ハイエナ、ヒヒ、インパラ、ヤマアラシとリストは続く。その中にアフリカヤマネコというのがいた。

本によると、人類の狩猟時代のともは、イヌだった。人類が“農耕”を始め、ネコが仲間入りする。米や麦を保存するようになり、ネズミが問題になった。
せっかく一年かけて作ってきた食料を、ちょっと目を離したスキに食べられてはたまらない。そこで、ネズミが大好物で、穀物に手を出さないアフリカヤマネコは可愛がられた。

中東、アフリカ全域、ヨーロッパにまで生息した彼ら。9500年前、ギリシアの近くキプロス島の墓で、人とともに埋葬されていたのが親しさを示す世界最古の遺跡だ。
4000年前、古代エジプトのころから、人間が積極的に交配させるようになり、急激に飼いならされていった。

こうして、骨格はほとんど変わらないものの、習性が家畜化したイエネコは別の種となり、アフリカヤマネコはそのまま、野生の道を歩み続けた。

サバンナでは、ライオンやヒョウがBIG CATと呼ばれ花形であるのに対し、コイツらは裏方の小ネコ。彼らを目当てにアフリカまでサファリに来る客はまずいない。
しかし、同じ草原に住む彼らなら、イエネコが失った感覚も持ち続けているだろう。ライオンのニオイで起こされる夜もあるかもしれない。そんなヤツが、宿舎を時折訪れ、みんなに可愛いがられていた。

スーッと、風に吹かれて現れた。足音も立てず、イエネコよりちょっとだけ長い脚を滑らせて、近づいてきた。ベランダで毛布にくるまる僕のひざの上に乗り、丸くなった。昼間はなつく素振りなんてみせなかったのに、耳を摺り寄せ、まったくの気まぐれだ。それに不意打ちを食らったのか、なすがままにしてやった。

そして、僕が読み続けるにつれ、ヤマネコの呼吸はちょっとずつゆっくりになり、やがて、コロコロコロと喉を鳴らしながら、眠りについてしまった。

小一時間も経ったころだろうか。突然、前触れもなく起き上がった。
鋭い視線で闇の方をじーーーっと睨みつけたと思ったら、飛びおりて、逃げ出した。
僕は同じ方向をじーーーーーっと目を凝らしてみたが、何も見えない、音もしなかった。何かのニオイだったのだろうか、、、。
・・・・・ふむ。

暗いベランダで一人考えた。いったい何に反応したのか・・・・?

もしやと?!と考えたところで、家の中に駆け込んだ。

イエネコが失ってしまった感覚か・・・・。

.

タアルーシャにて ケンタロー

ケンタロウ

野田健太郎
FGASA(南アフリカフィールドガイド協会)公認フィールドガイド、トラッカー。日本エコツーリズム協会会員。 元通信社記者。2008年からタンザニアに在住。「日本語で楽しく分かりやすく」と現地でサファリガイドを始める。インタープリターとして旅行者を案内し現地のオモシロ話を伝える一方、NHKの自然番組の撮影コーディネーターとして、大自然の神秘を映像を通じて届けている。

 |