SAFARI REPORT

サファリレポート

飛ぶ! 空からのアフリカ

どこから見るかで、モノの見え方は変わってくる。当然だ。
ここ数年、アフリカ大陸の見え方が気になっている。あまりにも大きいかせいか、見方によって全然、違って見えるのである。全体像をつかむのはとても難しい。


初めてそんなことを意識したのは、スペインのジブラルタル海峡からアフリカを目にした時だ。数十キロ先の霞の中に、モロッコのアトラス山脈が見えた。パウンドケーキを横から見たような形だった。当時、タンザニアでボランティアをしていた友人がいた。ソイツがこのパウンドケーキのどこかに乗っかってると思うと不思議だった。

次に思ったのは、アフリカ最高峰キリマンジャロの頂上から見下ろした時。肝心な山頂では、霧で何も見えなかったが、登頂した達成感に満たされ、下った砂礫の斜面からは、はるか先まで続く陸地が見え、小さな山が時々、雲間から頭をのぞかせていた。そして、その先の大地は、ずーっと続く雲の中に消え、見えなくなっていた。これが喜望峰まで続く陸の塊で、その一番高い場所に立ったのかと思うと、また不思議な感覚だった。南アフリカにいる友達は、はるか遠くにまたたく灯火のように思え、妙に訪ねてみたくなった。

撮影のためにセスナ機を貸し切って、セレンゲtィ平原やンゴロンゴロ高原の上を飛んだこともあった。
プロペラ機は、数百メートル旋回をしながら違った景色を見せてくれた。空から見える、マサイの集落はネックレスのような模様になり、牛や人は点になった。そこから伸びる影は、平行線となり、抽象化された模様が美しかった。そこで暮らす人々の生活を思うと、ロマンを掻き立てられた。

もっとゆっくりなら、熱気球もある。バルーンサファリと言われるやつで、熱気球からサバンナを見下ろす。夜明け前に離陸ポイントに着き、朝の引き締まった空気の中を上がる。エンジンはなく風任せ。時折、バーナーを噴射して高度を調整する以外は音もなく、静かで安定している。数十メートルという高さは結構近い。

「上空はよほど寒いのか」と身構えていたら、意外と暖かい。風がないのだ。当然と言えば、当然だ。風と同じスピードで動いているのだから。風のように静かにゆっくりと、草原を渡る感覚は格別だった。朝日に照らされた草原をキリンが、スローモーションで走る姿は、いまだに脳裏に焼き付いている。


そして今回のマイクロライト。
エンジンのついた飛行体としては、一番軽いので、マイクロ・ライトと呼ぶらしい。簡単に言えば、ハングライダーにエンジンとプロペラを着けただけ。ダーバンで乗った。見かけは少し頼りないが、数百メートルの滑走をへて、飛び立つと安定している。確かに、身を守る装備はシートベルトとヘルメット以外何もなく、風はそのまま吹き抜けるが、その感覚はオートバイそっくり。違うのは、上空からの景色だとういうことだけだ。飛び立つと、ほどなく、家はマッチ箱になって、車はミニカーになって、人はアリンコになった。
そして、サトウキビ畑の上を飛び、やがて海に出た。

海はきれいなマリンブルーだった。
波は岸で順序よく割れ、水平線に続くウネリもよく見えた。
一面のブルーの中に、わずかなしぶきを見つけたら、それはイルカの群れだった。波と戯れて、スクリューのように体をねじって、飛び上がって遊んでいる。

サーファーを見つけ、手を振った。スピードを上げながら降下し、タッチできるくらいまで地面に近づいた。サーファーの顔もはっきり見えた。ワシが地面すれすれの獲物を捕えるときは、こんな感触なのだろうか。タッチ&ゴー。上空に戻ると少しホッとした。
今度は、水面に黒い影を見つけた。これはジンベイザメだ。
サメのくせにプランクトンしか食べずおとなしい。大陸の東側を流れる暖流に乗って行き来し、タンザニア沖でもよく見られる。体長は10数メートルになるものもいて70年生きるとも言う。こいつもタンザニアまで行くのだろうか?!三千キロはあるが、1万キロの移動した記録もある。行くのかもしれない。ジンベイは深い海の底に潜り、見えなくなった。
ふと見回すと、あたりは気が遠くなるほど、果てしなく続く青い海と空の世界だった。これが彼らが移動する世界か。地面では感じきれないスケールを感じ、声を張り上げてインストラクターに聞いてみた。
「ここからタンザニアまで何日かかる?」
「コイツで飛んだら10日くらいかな」


「野田さんの夢はなんですか?」
空港に行く途中、南アで親しくなった日本人女性に突然聞かれた。不意をつかれた自分はうまく答えられなかった。

しかし、頭の中では、気が遠くなるほど広大な景色をリプレイし、そこを旅するパワフルでカラフルな動物たちをイメージしていた。軽やかに風に乗って山を飛び越え、湖から湖へと渡るフラミンゴ。水と緑を求めて川を渡り、草原へ駆けるシマウマやヌー。そして、マリンブルーの海で一人力強くヒレを振り、旅をするジンベイザメ。この広大な世界を行く感覚を表現できないものか、、、、。

急に大陸が立体的に見えてきた。

2010年9月
アルーシャ自宅にて ケンタロー

ケンタロウ

野田健太郎
FGASA(南アフリカフィールドガイド協会)公認フィールドガイド、トラッカー。日本エコツーリズム協会会員。 元通信社記者。2008年からタンザニアに在住。「日本語で楽しく分かりやすく」と現地でサファリガイドを始める。インタープリターとして旅行者を案内し現地のオモシロ話を伝える一方、NHKの自然番組の撮影コーディネーターとして、大自然の神秘を映像を通じて届けている。

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