SAFARI REPORT

サファリレポート

マウンテンバイク・サファリ

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「マウンテンバイクサファリ」

3年前、アフリカでガイドを始めた時、東京の旅行社をひとつひとつ廻り、営業活動をしていた。 少し特徴がなくては、気にかけてもくれまいと、 初めて提案したオリジナルのサファリ・プランだった。
「より自然や地元と目線が近い旅をー。」決まりきった観光の王道ルートをいくのではなく、ネームバリューはなくとも、直に体験することで、記憶に残るサファリが作りたかった。
距離が近いことが重要だった。 走っている車の窓からでは見えないものがある。ずっとそう思っていた。カバの足跡の横にしゃがみ、昨晩そこであった出来事を話したり、動物の骨を拾って、その最期を検証したり、立ち止まって地元の人に話しかけたり、汗まみれになって、、、、。そうすることでしか、見えてこない自然やアフリカがある。
それには自転車がもってこいだ。車に比べ、エコだし、健康的だし、なにより、周りの世界との距離が近い。

「自転車でキリンとレースができたらなー」なんて妄想を膨ませながら、プランを練った。草食獣はいいが、危険なライオンやゾウには、近づきたくない。頭を抱えた。コースと時期が肝心だ。

乾期には乾燥し過ぎ、土ホコリがひどくて自転車なんて乗ってられない。雨期は雨期で、泥だらけになって、通行が不可能だ。加えて、動物の動きを勘案して、ライオンなどの肉食獣がいないところを、暑くなりすぎないところを、、、。いろんな可能性を吟味し、プランができあがった。
そして、「予約」が入ったときは、ひとりオフィスで踊った。


舞台は、作家ヘミングウェーが「アフリカで一番美しい景色」と贊えたマニャラ湖。
この湖は、アフリカ大陸を縦に引き裂く、「アフリカ大地溝帯」の麓にある。北はヨルダン、エチオピア、ケニア、タンザニアを抜け、モザンビークまで。世界最大の地溝帯の長さは、7000キロにもなり、人間の目には、「溝」というよりは「連なる山」のように見える。インド洋の湿った空気は、その斜面にあたり、麓に雨が降る。雨は、土壌から少しずつアルカリ成分を溶かし、湖に注ぎこむ。一番深いところでも数メートルとパン皿のように浅いうえ、注ぎ出る川がないマニャラ湖は、強いアルカリ性となる。その水で大量発生するプランクトンが、フラミンゴを引き寄せ、年中渇くことのない水が、ヌーやシマウマを引き寄せる。
しかし、すべては雨次第。全然動物がいない可能性もあった。

早朝、ようやく昇ったデッカイ大陽を背に、自転車にまたがって湖に向かった。
途中、新しいシマウマのフンや足跡を見つけた。ヌーのものもある。期待が膨む。畔にでると、陽を受け、数千羽のフラミンゴが湖面をピンク色に染めていた。シマウマらも草を食べるのを止め、顔をあげ、「なんじゃろ?!」とこちらを見ている。やった!いた!逃げない距離を保ちながら、小走りのシマウマと並走。
畔では、ヌーの死骸にも遭遇した。すでに死後1,2か月経っているがきれいに残っている。水を飲みにきたところ、ケガか病気で倒れたのだろう。後にハイエナにオツマミにされたようすまで、細く見てとれた。
タイヤの横に落ちてたフラミンゴの羽を拾った。砂を払うと、先にいくほど鮮やかなピンクに染まっていた。

雨はいきなりやってきた。
登り坂で、ペダルを漕ぎながら、見上げると目の前に、大きな雨雲が立ち上り、僕らを見下ろしている。砂煙があがって、逆風になったと思ったら、次の拍子には、大粒の雨がバツバツバツー、、、、。体をかがめてペダルを漕いだ。大粒の雨が痛い。ホコリを吸いつけ、体は泥のチョコレートコーティングのよう。

息を切らせ、口を開けて漕ぐので、歯はお歯黒のようにまっ黒。水溜りで素っ裸で水浴びする子供らが手を振ってくる。「ジャンボー!」大きく手を振り返すと、裸のまま追いかけてくるヤツまでいる。聞きかじった英語が使いたいのだが、よく間違えて、「WHO ARE YOU?」が「HOW ARE YOU?」になる。裸で走ってきて「あなたダレ?」と聞かれると、「お前こそ誰やねん?!」と突っ込みたくなった。

その夕方、最終キャンプに到着。妙に清々しい気分だった。傾く陽を受け、光る葉を見上げ、ほっとした。日焼けと運動で体はほてり、泥だらけになるまで、遊んだ小学校の放課後を思い出した。久しぶりの快感だった。


翌朝、マサイの村を訪れた。
散乱した家畜の糞やノーパンの子供たち、、、。マサイの村を訪れると、時折ビビってしまうお客さんがいる。しかし、今日のお客さんに、その気配はない。日頃はおとなしいニ人だが、今朝はいやに楽しそうだ。ノーパンの子供たちと手をつないだり、踊ったり、写真をとっては、モニターに映る画像を見せてやったり、、、。違いはなんだろう?
もとのキャラ次第という話もあるが、それだけでないような気がする。

旅先で人に馴染むのには、時間がかかる。接する距離も重要だろう。どうもこの二人は、たっぷり馴染んだようだ。
ヌーの死骸でしゃがみこみ、フラミンゴの羽を拾っては観察し、素っ裸の子供に追いかけられて、「あなたは誰?」と聞かれ、泥だらけになっては自転車を漕いだ。

そんな体験一つ一つが、二人の表情に、関係している気がした。

2011年2月
マニャラ湖―セレラの谷 ケンタロー

ケンタロウ

野田健太郎
FGASA(南アフリカフィールドガイド協会)公認フィールドガイド、トラッカー。日本エコツーリズム協会会員。 元通信社記者。2008年からタンザニアに在住。「日本語で楽しく分かりやすく」と現地でサファリガイドを始める。インタープリターとして旅行者を案内し現地のオモシロ話を伝える一方、NHKの自然番組の撮影コーディネーターとして、大自然の神秘を映像を通じて届けている。

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